東京地方裁判所 昭和59年(特わ)1537号 判決 1984年9月13日
本店所在地
東京都目黒区中目黒四丁目八番二二号
(実質上の所在地
山形県東田川郡三川町押切新田字刈取三六番地)
千代田工業株式会社
(右代表者代表取締役要一夫)
本籍
東京都品川区荏原七丁目五三四番地
住居
同都同区荏原七丁目三番地一号
会社役員
田村茂
昭和五年七月一八日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人千代田工業株式会社を罰金九〇〇万円に処する。
被告人田村茂を懲役一〇月に処する。
被告人田村茂に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人千代田工業株式会社(以下被告会社という。)は、東京都目黒区中目黒四丁目八番二二号(実質上、昭和五七年一一月までは、同都港区白金一丁目一一番八号、同以降は、山形県東田川郡三川町押切新田字刈取三六番地)に本店を置き、電気通信機器部品の販売製造等(昭和五七年五月二七日以降は、電気通信機器および関連機器の製造販売等)を目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人田村茂は、同会社の代表取締役(昭和五七年一二月一七日以降は、代表権のない取締役)として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人田村は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の部品仕入及び外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四五九九万二四一三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年六月一日、東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五七〇八万〇〇二八円でこれに対する法人税額が一九五九万二〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第一一〇五号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五五一四万九九〇〇円と右申告税額との差額三五五五万七九〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人田村茂の(1) 当公判廷における供述
(2) 検察官に対する供述調書四通
(3) 上申書
一 渡辺達夫(二通)及び相澤吉雄の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の調査書
(1) 当期部分品仕入高調査書
(2) 工場消耗品費調査書
(3) 消耗工具器具備品費調査書
(4) 外注加工費調査書
(5) 給料資金調査書
(6) 旅費交通費調査書
(7) 接待費調査書
(8) 受取利息調査書
(9) 顧問報酬調査書
(10) 特別減価償却準備金戻入金調査書
(11) 価格変動準備金繰入金調査書
(12) 交際費損金不算入調査書
(13) 事業税認定損調査書
一 芝税務署長作成の証明書
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五九年押第一一〇五号の1)
(法令の適用)
法律に照らすと、被告会社の所為は法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、一五九条二項を適用し、その罰金額の範囲内で被告会社を罰金九〇〇万円に処し、被告人田村の所為は同法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、後記情状にかんがみ刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、ビデオテープレコーダーやオーディオ製品に使用するテープカウンター、VUメーターなどを製造販売する被告会社において、その代表取締役であった被告人田村が、取引先と通謀して架空の部品仕入費及び外注加工費を計上するなどの方法により、八八九〇万円余の所得を秘匿し、三五五五万円余の法人税を免れたという事案であり、正規税額に対するほ脱割合も約六四パーセントに達しており、同被告人の納税意識の低さを物語っている。
被告会社は、その生産した製品のほとんど全部を株式会社田村電機製作所に納品しており、同会社から製品の値下げを迫られていたことや自社製品の生産量を拡大するため、外注先の渡辺製作所に設備増強のための資金を援助してこれらの問題に対処するについて、同社から被告会社に対する外注加工費等の請求額を水増請求させ、水増金額を渡辺製作所に支払い、これを同社の資金に利用させると共に、その中から被告会社の簿外交際費や自己及び家族の生活費等に充てる金員を返還させていたものであり、その動機に関してもとくに斟酌すべきものはなく、犯行の態様も悪質かつ巧妙といわなければならない。
しかしながら、他方、被告人は本件犯行により被告会社における代表取締役の地位を失い、現在は月額報酬五〇万円の非常勤取締役となり、被告会社は、かつての外注先であった株式会社要製作所の代表者を代表取締役に迎え、経営の再建を図っていること、被告人は、本件が発覚するや、捜査及び公判を通じて一貫して脱税の事実を素直に認めて改悛しており、被告会社との関係でも自己の費消分を返済していること、被告会社においても本件脱税額につき修正申告のうえ本税・附帯税等すべてを納付済であること、被告人には昭和四二年に傷害罪等による罰金刑の前科が二件あるほかは前科・前歴もないこと等被告人のため斟酌すべき事情も認められるのであり、これらを総合勘案して主文掲記の刑を量定した。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑、被告会社につき罰金一〇〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)
出席検察官三谷紘、弁護人武藤一駿
(裁判官 小泉祐康)
別紙(一)
修正損益計算書
千代田工業株式会社
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>
修正損益計算書
千代田工業株式会社
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>
別紙(二)
税額計算書
<省略>